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十 - 18(1 / 2)

かように考えて面白いなと思っていると、格子(こうし)ががらがらとあいて、玄関の障子(しょうじ)の蔭から顔が半分ぬうと出た。

「先生」

主人は武右衛門君に「そうさな」を繰り返していたところへ、先生と玄関から呼ばれたので、誰だろうとそっちを見ると半分ほど筋違(すじかい)に障子から食(は)み出している顔はまさしく寒月君である。「おい、御這入(おはい)り」と云ったぎり坐っている。

「御客ですか」と寒月君はやはり顔半分で聞き返している。

「なに構わん、まあ御上(おあ)がり」

「実はちょっと先生を誘いに来たんですがね」

「どこへ行くんだい。また赤坂かい。あの方面はもう御免だ。せんだっては無闇(むやみ)にあるかせられて、足が棒のようになった」

「今日は大丈夫です。久し振りに出ませんか」

「どこへ出るんだい。まあ御上がり」

「上野へ行って虎の鳴き声を聞こうと思うんです」

「つまらんじゃないか、それよりちょっと御上り」

寒月君はとうてい遠方では談判不調と思ったものか、靴を脱いでのそのそ上がって来た。例のごとく鼠色(ねずみいろ)の、尻につぎの中(あた)ったずぼんを穿(は)いているが、これは時代のため、もしくは尻の重いために破れたのではない、本人の弁解によると近頃自転車の稽古を始めて局部に比較的多くの摩擦を与えるからである。未来の細君をもって矚目(しょくもく)された本人へ文(ふみ)をつけた恋の仇(あだ)とは夢にも知らず、「やあ」と云って武右衛門君に軽く会釈(えしゃく)をして椽側(えんがわ)へ近い所へ座をしめた。

「虎の鳴き声を聞いたって詰らないじゃないか」

「ええ、今じゃいけません、これから方々散歩して夜十一時頃になって、上野へ行くんです」

「へえ」

「すると公園内の老木は森々(しんしん)として物凄(ものすご)いでしょう」

「そうさな、昼間より少しは淋(さみ)しいだろう」

「それで何でもなるべく樹(き)の茂った、昼でも人の通らない所を択(よ)ってあるいていると、いつの間(ま)にか紅塵万丈(こうじんばんじょう)の都会に住んでる気はなくなって、山の中へ迷い込んだような心持ちになるに相違ないです」

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